一瞬の閃光。

ほんで轟音、衝撃。

四肢のみながもぎ取られはるような激痛を全身に感じながら、イリスは尚も立ち向かうことを止めへんかった。

『何度向かおうとも無駄だ・・・』

頭の中に響くような声が聞こえるちうわけや。

脳を直接刺激するその音声も、今の状況では最悪の騒音・・公害に他ならへん。

「・・・っ、ざけんな・・・！」

一歩動く度に体中の骨が軋む。

体が悲鳴をあげるちうわけや。

ほんでも退かいない、

否、退けへん。

此処まできてしもたんやから。

背中に負った傷が疼いても、

開いてしもた顔の傷から血が滴っても、

退けへん、

決して・・・！！

「こないな所で・・・・・・・こないな所で、終われるかよ！！」

痛み、動くことを拒む体に鞭打ちう、イリスは跳躍したちうわけや。

闇の中、剣の刀身が美しく光ったちうわけや。

その場にはそぐいまへん美しさで。

 

 

やけど、もっかい無情にも閃光は輝く。

輝いた閃光は幾本もん矢となってイリスの体に襲い掛かるちうわけや。

ほんで襲い掛かった矢は、まるで起動スイッチが入ったように暴発したちうわけや。

大量の矢がいっぺんに爆発し、鼓膜を劈くような轟音を生み出す。

轟音はいっぺんに衝撃となってイリスを襲うわ。

イリスの体は地面につよ叩きつけられ、下敷きになりよった左翼腕が嫌な音を立てたちうわけや。

 

 

「・・うわ・・ぐあぁぁっ・・・！！」

激しい痛みに耐えかねて、イリスは声を上げてのた打ち回るちうわけや。

音のした部分は通常有り得へん方向に折れ曲がり、もはや操作は不可能となりよった。

歯を食いしばりながら体を起こすが、もはや体は限界らしく思うように動いてはくれへん。

痛みに悶えるイリスを見て、残酷な笑みで嘲笑うわ。

『やから言うたやろ・・・？キサマごときには不可能なんや。このガウル様を倒すやらなんやらとな・・・』

イリスはギッ、と相手を睨みつけたちうわけや。

その目は、例えどないな逆境に追いやられても決して諦めることをせん戦士の瞳や。

「無理、やない・・・！！」

まだ動く右翼手で剣をしっかと握り締めたちうわけや。

左翼腕を失っても・・まだ闘えるちうわけや。

『まだ解らぬか？キサマは身分不相応の意味を理解しておらへんようだな・・・』

「身分不相応やと！？」

イリスは叫びに近い声で公害を遮ったちうわけや。

立ち上がるとまた体が痛む。

力を無くした左翼腕がだらりとなるちうわけや。

「そないなもん・・あってたまるか！！悪を倒すんやけど、身分相応も不相応もあるかよ！！」

右翼手１本で剣を振り上げるちうわけや。

重い長剣の為、片手で持つには少々酷やけど・・今彼の中に溢れる正義感を持ってしたら問題はあらへん。

「わしは・・勝つ！！じぇったいおんどれを、倒す！！」

直後、剣は目映い光を放ち始めるちうわけや。

直感的にイリスは、オノレの勇気と剣が共鳴してんやと理解したちうわけや。

そうわ、この力。

この力を持ってしたら、勝てんねん・・・！！

「『Holy war』！！わしに・・力を！！」

イリスはありったけの声で剣に呼びかけ、体の痛みも忘れて駆け出したちうわけや。

真っ直ぐ、闇の根源へ向かうわ。

闇の中心に光を。

闇の世界に光を。

長年願い続けた瞬間やった。

みなの苦労が、悲しみが報われる筈の瞬間やった。

 

 

・・・せやけどダンさん。

 

 

闇の中から生まれ出でた闇の光は、剣を今正に振り下ろはんとするイリスに目掛けて飛び掛ったちうわけや。

目の前が覆われていく。

闇。

漆黒の闇。

虚無。

なあんもへん世界。

光は最期の一筋すら消え失せ、

ほんでみなが消えていったちうわけや。

なあんもななる・・・。

光も、

世界も、

音も、

色も、

熱も、

ほんで・・オノレも・・・・・・

 

 

バリアンツ

第一章      第二話 ?旅立ちの夜明け?

 

 

「っうわぁぁぁぁぁぁぁっっ！！！」

突然、しんとした静寂の空間は突き破られはった。

この世の終わりを見たような悲鳴。

部屋の主は驚いて、すぐにイリスに駆け寄ってきたちうわけや。

「ど・・どうかしたん・・・！？」

イリスは、その藍色の瞳を恐怖と驚愕でようけにしとった。

荒い呼吸と額にへばり付く汗が、寝覚めの悪さを誘発するちうわけや。

ちびっとずつ、ちびっとずつ呼吸を落ち着かせていく。

不意に、ひんやりとした杯が頬の傍に近づけられはった。

「お水・・飲む・・・？」

杯を差し出すんは、細く白い腕をした少女やった。

背中まで伸びたふわふわのブロンドが揺れるちうわけや。

少女は翠玉のような瞳にオノレの姿を映す。

微かに腕が震えとるんは、イリスの叫びに驚愕した故・・・やろか。

「あ、あぁ・・・おおきに・・・。」

イリスは杯を受け取ると、起き上がって水を一気に飲み干す。

乾ききっとった喉に、冷たい感触が心地よう通ったちうわけや。

空になりよった杯を受け取り、少女はちびっとほっとしたように微笑んや。

「・・・あ、あの・・さぁ・・。トコロで・・・。」

イリスはいっぺん辺りを見回してみたちうわけや。

見覚えのあらへん景色。

煌びやかいな、豪華絢爛な部屋。

オノレの寝とる寝台かて例外とちゃうんや。

こないな場所、覚えはあらへん。

訪れた覚えやらなんやら、へん。

やのに何故オノレは此処におるのやりまひょ。

「此処は、何処かいな・・・？」

思うていた疑問を即、口にするちうわけや。

すると少女は、虚を突かれたように目をぱちくりさせたちうわけや。

「此処は・・クラウンよ？ルーベンバッハ王国首都わ。」

「えっ・・・！？」

今度はイリスが虚を突かれたちうわけや。

「る・・ルーベンバッハ！？それって・・ボーンドレス大陸、やでな！？」

ガバッと起き出すと、不意に左翼腕に鈍痛が走るちうわけや。

くっ・・と痛みにに呻いて腕を押さえると、そこに白い布が巻かれとるのが解ったちうわけや。

「や、いける！？無理せんで・・・」

少女は心配そうな目でイリスを制するちうわけや。

やけどほんで、イリスの驚愕が収まる筈もへんかった。

「なぁ！？此処は、ボーンドレス大陸なんか！？ティナットリーザ大陸やったらなく！？」

まだ痛みのちびっとの右翼手で少女の肩に掴みかかるちうわけや。

やけど・・何故かその手に違和感がある気がしてならへん。

少女の肩が嫌に無骨なんか、見た目が細いんにも関わらずいざ掴んでみるとその大きさに手が足りなくなっとった。

「な、・・キミ、ティナットリーザ大陸から攻めて来よったの！？」

少女はイリスの目を見て思い切り驚愕するちうわけや。

少女の綺麗な翠色の目に、イリスの姿が映っとった。

おったまげるのも無理はなかろうわ、とイリスはおもた。

ティナットリーザ大陸には世界三大王国の一つであるんや、タクスハザード王国があるんや。

やけど、大きく波打ちうねる闇の波動によって大陸は閉ざされ、今や中の国内の様子を知る術は皆無に等しいのや。

その大陸、その国からの来客ともなったら、そらもう天と地がひっくり返ったようなおったまげやろう。

「あ、あぁ・・そうやて・・・。」

少女の剣幕に少々押され気味になりながら、イリスはその言葉を肯定したちうわけや。

すると、少女は更に驚愕したように呆然と瞳の色を落とす。

おったまげが限界を超えすぎて、何が何やら解らなくなってしもたのやりまひょ。

「そ・・そないに、おったまげる事か・・・？」

当然の答えが返ってくる事を予想しながら、イリスは少女に問い掛けたちうわけや。

やけどほんで、ちびっとでも彼女の緊張を解せるんやったらばほんでよかったちうわけや。

少女はゆっくりとイリスを見るちうわけや。

「・・・・当たり前よ、そやかて・・ティナットリーザ大陸からはどなたはん１人として生きて帰ってはこへんかったのよ、それに・・・」

その直後の言葉を、イリスは予想でけへんかった。

ほんでその言葉は、イリスを驚愕させ絶望の淵に叩き落とす、最上の言葉やった。

 

「それに・・キミみたいな『ボウズ』が、１人で来よるやなんて・・・・・・」

 

イリスは１８歳やった。

なんぼなんでも、本人はそのつもりやった・・・。

 

 

 

「では、そなたはイリス・ロイスロッドであると、そうぬかす事か？」

グランディス国王は、厳かに言い放つ。

玉座の前に恭しく跪くは、茶に近い金髪の少年。

どう見ても１０歳前後にしか見えへん彼の顔には、大きな真一文字の傷があったちうわけや。

「はい・・・。」

少年・・イリスはちびっと俯き気味にそう答えるちうわけや。

ソフィアはその姿を見ながら、つい数ヶ月前にも同じような光景があったんを思い出したちうわけや。

今と同じく国王に跪く青年。

名は、「イリス」とぬかした。

信じられへん事やけど、此処におるんはその時のイリスと同一人物らしおます。

イリスは数ヶ月前このルーベンバッハ王国に訪れて、ルーベンバッハ王国唯一の港「レストサンド」より、ティナットリーザまで船で行きたいと申し出たのや。

無論、国王はそれを快く受け入れはせぇへんかった。

ティナットリーザに行くことは、船乗りにとっても乗客にとっても命をほかすに等しい行為や。

今やあの大陸の周りは暗雲が立ちこめ、高波が近付く船を片っ端からカンペキに破壊して食い尽くす、魔の海域が出来上がっとった。

せやけどダンさんイリスは退かへんかった。

どないしたかてティナットリーザ大陸、タクスハザード王国に行く必要があると国王を説き伏せたのや。

その理由は、彼自身が背負っとった「血」にあるんや。

イリスの一族は太古より伝えられはる、この世でケツの聖剣「Holy war」を守り続けとるらしおます。

しかもイリスは、その一族のケツの生き残り。

おまけに、生まれた時に神の使いを名乗る人物から「勇者」とお告げを受けとった。

１８になりよった時、この世の闇をみな取り払うべく旅に出ろ・・・と。

そのお告げに従いイリスは旅立ち、ほんで闇の根元である場所を突き止めたのや。

それが他やったらぬ、ティナットリーザ大陸。

魔王を名乗る者が巣くう大地。

どないしたかてそこへ行き、世界に平安を取り戻したいのや・・・と、イリスは主張したちうわけや。

その言い分に、国王も折れたちうわけや。

乗組員達の命もイリスが守る、とぬかす条件の下にティナットリーザ大陸まで渡ることを許可したのや。

その会話を、ソフィアは遠くさかい聞いとった。

正直ぬかして、あんまり興味がなかったのや。

確かに、話題の元があのティナットリーザ大陸である事は少々興味を引かれたが、元々イリスの事自体を信用してはおらんかった。

胡散臭い連中やったら本日この時まで何度も見とる。

やけど、その中そやけど、２０にも満たへん青年があろう事か「魔王退治」を申し出るやらなんやら、これを胡散臭いと言わずして何と言おうか。

・・・せやけどダンさん、彼は旅立ったちうわけや。

ほんで、戻ってきた時にはこの有様やったんや。

彼の話しによると、イリスは確かに「魔王ガウル」と対峙したらしおます。

やけどその余りに強大すぎる力、ほんで違いすぎる力量を前に押され続け、最終的に闇の呪いを受けてこの姿になってしもた、とぬかす。

「して、イリスよ・・・件の聖剣はどうしたのや？」

そういうたら、その剣の姿は此処に来てからいっぺんも見せておらへん。

よりどエライ昔は、その腰に差されて居たゆうんやけど。

国王が問い掛けると、イリスは一瞬言いにくそうに顔をしかめたちうわけや。

・・・が、隠したかてメリットはあらへん、とばっかりに１本の剣を取りだしたちうわけや。

否、そらもはや「１本」とちゃうかった。

「????・・・！？」

その場の全員がどよめく。

ソフィアも、同じく息を呑んや。

 

よりどエライ昔、美しい輝きを放っとった聖なる剣。

やけど今はその面影もへん。

 

輝く刀身は漆黒に染まり、

美しかった刃は、真っ二つの折れとった。

 

そうわ、「Holy war」は、聖なる力を失い、挙げ句剣としての力すら失っとったのや。

 

国王は唸ったちうわけや。

唯一魔王を討ち取る事が出来よるとされる聖剣。

それが、この様。

そらこの世の終わりを示すようなもんやった。

何しろ、これで魔王を倒す手段はなくなってしもたからや。

イリスは辛そうに深く俯く。

「・・・・この剣を、そなたはどうするつもりだ・・・？」

国王が重い口を開く。

やけどイリスは答えへんかった。

答えられへんかった。

どうしたらええか解らんとおるのや。

彼でさえも。

「・・・この世界の何処かに、最高の鍛冶士が居ると聞きまんねん・・・あわようば、彼の方に会うことが出来れば・・・。」

苦渋の言葉やった。

ワイが思うには、お伽噺か何ぞの類やろう。

やけど、今はそれにすら縋りたい気分やった。

「その話はわても知っておるちうわけや。やけど・・信憑性は殆どへん。ホンマにその鍛冶士が存在するんかどうかさえ怪しいもんや。」

国王の言葉に、イリスはまた黙り込んや。

骨折した左翼腕が、嫌に痛む。

「・・・ほんでも、わしは行きまんねん。僅かいな可能性があるやったら・・・。何としたかて、魔王を倒さなならへんのや・・・この、わしが・・・！」

ぎり、と床についた右翼手を握り締めるちうわけや。

辺りは一層沈黙したちうわけや。

ソフィアは、はらはらとその様子を見守ったちうわけや。

今は彼を疑ってやらなんやらおらへん。

寧ろ信じ切っとる。

ティナットリーザ大陸から、何処をどうしたんか生きて戻ってきた人間。

彼には神の加護があるんとちゃうか、と信じんとはいられへんかったからや。

「・・・また、旅に出るんか？」

「はい、今度は・・終わりの見えへん旅や・・・。せやけどダンさんほんでも行かねばならしまへん、それが・・・わしの宿命なんやこれがホンマに・・・。」

イリスの毅然とした声が、玉座の間に響き渡ったちうわけや。

俯かれとった顔はしっかりと上げられとる。

自信はなくとも、可能性を信じる力はあるんや。

そないな、瞳やった。

「・・・・・・よし、解ったちうわけや。わて達も、出来よる限りをサポートしょう。」

国王はそうぬかした。

その表情には、僅かいながら希望の光が見えたような、そないな喜びが滲み出とった。

イリスは礼をぬかすように、深々と頭を下げるちうわけや。

その後国王は、イリスに傷を癒すことを勧めその場の者を解散させたちうわけや。

集まっとった野次馬も、やれやれと仕事に戻っていく。

イリスも、医者に付き添われて部屋を出ていったちうわけや。

どうやらまだ腕の傷は癒えきっておらへんようや。

ソフィアは医者とちゃうで解らへんが、なんぼなんでも全治には1ヶ月以上かかるやろ。

国王もそのイリスを見送った後に部屋を立ち去るちうわけや。

ほんでケツの１人も居なくなりよった時、玉座の間に残っとるんはソフィアただ１人となっとった。

「・・・よぉ、ソフィア。」

不意に後ろから声を掛けられ、ソフィアは振り返るちうわけや。

そこにいたんは、兄のレビスやった。

「お兄、様・・・？」

何時の間に戻ってきたのやりまひょ。

それを問いたかったんやけど、それより前にレビスはソフィアの言葉を牽制したちうわけや。

「おんどれの『白雪姫』、離しといたぜ？後はおんどれの好きにしろや。」

ポンッ、と軽く肩を叩く。

まるでソフィアの現在の心境を悟ったかのように。

「・・・お兄様・・・おおきに・・・。」

素直な言葉が口に出たちうわけや。

そら、毎日毎晩壱年中からかってはいるんやけど、矢張りオノレにとっては何より優しい兄であると、レビスを見直した事によって出た言葉やった・・・。

 

 

東の空が白ばみ始めたちうわけや。

それを確認しながら、イリスはまだ日の入らへん庭園を真っ直ぐ・・城門目指して歩いとった。

あの門を抜ければ、また新たな旅立ちが待っとる。

霧の中を行くような旅。

何処を目指すんか、

何時終わるんか、

皆目見当も付かいないちうわけや。

ほんでも行かねばならへんとするは、己が血の宿命。

・・そうわ、昨日イリスは城の者達の前で決意表明したちうわけや。

せやけどダンさん、何とぬかしても今のオノレはよりどエライ昔に比べて頼りなさ過ぎるちうわけや。

体は呪いにより幼児化し、剣も折られて武器もへん。

この上、国中を回るに相応しい移動手段も、仲間のおらへんのや。

どないな前途多難な道のりか、考えただけでも疲れがどっと来よる。

 

ほんでも、進まなならへんのが戦士の常か・・・。

 

取り敢えへんし、今はその鍛冶士を探すことに専念せなばならへん。

呪いを解くんは魔王を倒してからや。

武器はどうにかして調達しょう。

移動手段も、何処かの街できっとどうにかいなるちうわけや。

仲間は・・・何処かで見つければええ。

見つけられはるか解らへんが、可能性はゼロとちゃうんや。

 

後ちびっと、

もうちびっとで此処からさよやったらや。

国王からのサポートは嬉しいこと限りまへんが、彼方も国民を守らなならへん立場。

これ以上重荷を背負わせる訳にはいかん。

 

後ちびっと、

もうちびっとで平穏からもさよやったらや。

ほんで始まるんは闘いの毎日、死闘の毎日、生傷の絶えぬ毎日。

ほんでも乗り越えて見せまひょ。

１人そやけど、

たった１人でも・・・

 

 

 

「・・・勇者サマ、何処へ行かれるの？」

 

 

 

不意に、後ろから声を掛けられはった。

否、声がしたんは頭上からのような気もしたが・・・。

「腕の傷も癒えていてはらへんし、武器も無くされて、おまけにそのお体。

　そないなお姿で、無事に旅が出来よると仰るの？」

聞き覚えのある声に、イリスは振り返ったちうわけや。

そうわ、聞き覚えがあったちうわけや。

最初にこの城を訪れた時は言葉やらなんやら交わさへんかった。

やけど、今回はちゃう。

 

「彼女」に、介抱して貰ったちうわけや。

「彼女」に、オノレの真実を知らされたちうわけや。

「彼女」に、助けられはった・・・。

 

「???・・・ソフィア姫！？」

思わず声が上擦るちうわけや。

そこにいたんは、美しい白馬に跨ったルーベンバッハ王国の第一皇女。

ソフィア・ルーベンバッハやった。

しかも、その姿は・・・おおよそ姫と呼ぶには相応しない。

「い・・一体なんでやねん！？それに・・・お姿は・・・？！」

ソフィアの背中に揺れとった美しい金髪は、少年のような短さにばっさりと切り揃えられとった。

細い体は普通の男性用服の上に、銀に輝く軽めの鎧を纏っとる。

胸には青い宝石とルーベンバッハ王国騎士の印。

ほんで極めつけは純白のマントと腰に差したレイピア（細身刀）。

「姫」の面影やらなんやら微塵も残さへんし、ただ冒険を夢見る少女がおるばっかりや。

「幼い姿にさせられはった勇者サマだけやったら、何ぞと不自由でっしゃろ？やから、わたくしもご一緒させてもらうで！」

イリスは驚いて首を横に振ったちうわけや。

「い、いけまへん！！あんさんは仮にも皇女様ですわ！？もしもん事があったら・・・」

やけどソフィアは退かいないちうわけや。

「いける！わたくし１人やおまへんわ。ねぇ、ルー？」

ソフィアがそうぬかすと、彼女の肩辺りからマントと同じく純白の姿をした竜が現われたちうわけや。

白竜、しかもボウズや。

これにはイリスも、呼吸を一瞬止める程おったまげた。

やけどそのおったまげも束の間。

ソフィアは更に言葉を続けたちうわけや。

「わたくし、ソフィア・ルーベンバッハとこのルーベルト・レイがご一緒しまっせ。これやったら、心細ないでっしゃろ？」

イリスはたじたじとなってソフィアを見上げるちうわけや。

その翠の瞳は決意に満ち、ほんで強い光を帯びとった。

ドレスを着とった美しい姫君の時はまるっきし見えへんかった表情。

否、これが彼女のホンマの姿なんやろうか。

「・・・な?んてーな、堅苦しい言葉遣いはお互い此処までにしまひょ？」

ソフィアはそうぬかして微笑むと、軽々と馬から降りたちうわけや。

ごっつう乗り慣れた様子から、乗馬の経験はごっつうのようや。

ばさり、と風に舞うマントが、彼女の中の雄々しさを醸し出してん。

これもまた、彼女のホンマの姿。

「旅に出て苦労を共にするんやったら、姫も勇者も関係あらへんわ。『仲間』だもん。無駄に丁寧な言葉なんか使うよりも、対等に話したい思いまへん？」

彼女が馬を降りたんは、イリスと対等になりたいゆう心の現われか。

彼女が旅立つ決意をしたんは、「世界」とぬかす未知のもんへの好奇心か。

「・・・何をぬかしても、無駄みてぇだな・・・。」

苦笑しながら鼻の下を人差し指で擦るちうわけや。

先程までの、国王を前にした様子とはまるっきしちゃう。

まるで年相応の少年や。

ソフィアはそれを見てまた笑んや。

そうわ、それが見たかったんや。

オノレを「姫君」と見いひん、そないな表情が。

そないな言葉、そないな人物。

友人、仲間とぬかす存在が。

「解ったよ。よろしゅう頼むよ、姫サマ。」

イリスは怪我した左翼手を庇い、右翼手を差し出したちうわけや。

ソフィアはその小さな手を取るちうわけや。

小さくとも、そら立派な戦士の手。

闘いへの熱が伝わるちうわけや。

がっちりと２人は握手を交わしたちうわけや。

「さぁ、行きまひょ！夜明け前に城を出なきゃ！」

ソフィアはその手を離すと、白馬の手綱を持って歩き始めたちうわけや。

イリスもその後を追うわ。

ほんで空中からは、ルーが「くるるる、きゅー」を連発しながら飛んでいく。

庭園からその３つの影が消えていくのを、朝日はしかと見届けとった。

 

旅は始まったばっかり。

夜明けは、まだ見えへん???・・・。

 

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　To be continued